結論ファースト(TL;DR)
- プロの定石は「より良い指標」ではなく、多市場分散 × ボラ・ターゲティング × 過剰最適化を疑う統計。
- 29ETF(株/債券/商品/通貨/不動産)・2007–2024で再現 → FX単体 Sharpe 0.31 が、クロスアセットで 0.64 へ。
- 2008・2020・2022の危機で稼ぐクライシス・アルファを確認。SPYとの相関 −0.09。
- 独立検証でROBUST-EDGE(本研究初の監査通過)。ただし現実配備版は Sharpe ~0.50 と控えめに置く。
第1幕で8戦略すべてが沈んだあと、問いを変えました。「どの指標が勝つか」ではなく、「プロのシステムトレーダーは、そもそも何をしているのか」。答えは拍子抜けするほど地味で、そして本質的でした。
プロが見ている方向
調べて分かったのは、勝っている運用者は魔法の指標を持っているわけではない、ということ。彼らの強さは3点に集約されます。
- 多市場分散:1つの相場ではなく、株・債券・商品・通貨・不動産という相関の低い多数の市場に同時にベットする。
- ボラ・ターゲティング:各市場のリスク(ボラティリティ)を均し、ポートフォリオ全体の目標リスクへスケールする。
- 過剰最適化を疑う統計:派手な数値を額面で信じず、試行回数で割り引く(→レポート03)。
そこで、これを最小構成で再現しました。シグナルは 63 / 126 / 252日のトレンド符号の平均(=複数の時間軸のアンサンブル)という、ごく単純なもの。逆ボラ加重で各ETFを重み付けし、ポートフォリオの目標年率ボラを10%に調整しただけです。
結果:分散がエッジを生んだ
| 構成 | 市場数 | Sharpe | 年率 | 最大DD | SPY相関 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全クロスアセット | 29 | 0.64 | 6.9% | −21.5% | −0.09 |
| FXのみ | 6 | 0.31 | 3.4% | −19.3% | — |
| 株のみ | 8 | 0.24 | 2.7% | −25.5% | — |
単一クラスSharpe:株0.24/債券0.45/商品0.58/通貨0.31/不動産0.25。出典:docs/cta_result.md。
注目すべきは、どの単一クラスも0.24〜0.58なのに、29市場を束ねると0.64と全部品を上回ったこと。同じ「トレンド」という単純なシグナルでも、枠組み(分散とサイジング)を変えるだけで別物になりました。第1幕の負けの原因は「シグナル」ではなく「枠組み」だった——これが実証されたのです。
危機で稼ぐ「クライシス・アルファ」
このモデルの真価は、サブ期間の成績に表れます。株が暴落した局面でこそ、トレンドフォローは下落方向に乗って稼ぎます。
| 期間 | Sharpe | 相場環境 |
|---|---|---|
| 2008–09 | +0.70 | 世界金融危機 |
| 2020 | +1.52 | COVIDショック |
| 2022 | +1.13 | 利上げ局面 |
| 2023–24 | −0.25 | 方向感のない年 |
単一の「JPY安」局面に依存していた第1幕の戦略とは対照的に、複数のレジームを横断して生き残る。これが頑健性の証拠です。
独立検証(7つの攻撃)を通過
陽性結果ほど疑う——別のAIエージェントに、このモデルを破壊する7つの攻撃を試させました。
- ルックアヘッド:完全クリーン。 意図的に未来をリークさせるとSharpeが4.28に爆発(=本物のリークなら一目瞭然)。逆に1日余分に遅らせても0.71で生存。
- 符号反転テスト = −0.99。 エッジは本物の「トレンド方向」によるもので、リバランスの副産物ではない。
- パラメータ頑健。 ルックバックやボラ窓を変えても0.52〜0.65で安定。特定の数値に依存していない。
- 1クラス除外でも0.48〜0.73。 真の分散であり、特定資産への依存ではない。
判定は ROBUST-EDGE(条件付き)。本プロジェクトで初めて、監査を通過した頑健な系統的エッジでした。
唯一の弱点=コスト感応度。 日次リバランスは回転が高く、片道10bpsで死にます(Sharpe−0.05)。そこで週次リバランスに落とすと回転が半減し頑健に。現実配備版=週次・片道5bps:Sharpe 0.50/年率5.5%/最大DD −19.2%。実際のCTAファンド並みの、株と無相関な配備可能級リターンです。
正直な期待値
見出しの0.64は理想値(日次・低コスト)です。現実配備版は0.50、さらに「何回も試した」ことを統計的に割り引くと、期待Sharpeは0.3〜0.4が妥当。地味ですが、株と無相関で危機に強い分散資産として、一定の価値があると考えられます。その「割り引き」をどう計算したかは、次のレポートで。
よくある質問(FAQ)
CTA(マネージド・フューチャーズ)とは?
株・債券・商品・通貨など多数の市場でトレンドフォローを行う運用スタイルです。本研究では『多市場分散×ボラ・ターゲティング』を最小構成で再現しました。
なぜ0.31が0.64に上がるの?
分散効果です。単一クラスはどれも0.24〜0.58ですが、相関の低い29市場を束ねると部品の最大を超える0.64に。『分散は唯一のフリーランチ』の定量再現です。
現実に運用するとどのくらい?
週次・片道5bpsの配備版でSharpe約0.50(年率5.5%・最大DD−19%)。試行回数を割り引くと期待値は0.3〜0.4が妥当です。