結論ファースト(TL;DR)

「このロジック、なんだか勝てそうだ」——その直感を、データで何度も殺していく作業から、この研究は始まりました。AIエージェントに検証基盤を作らせ、人間は判断に専念する。まず取り組んだのは、王道のFXテクニカルが「素のまま」どれだけ通用するかを測ることでした。

何を、どう検証したか

対象はFXメジャー通貨ペアに加え、合計28ペアという広い母集団。データはDukascopyの15分足(2022年1月〜2024年12月)。重要なのは、検証の公平さを担保するルールを最初に固定したことです。

結果:価格戦略は全滅、キャリーも局面依存

骨格となる自作戦略から、プロが使う定番まで一通り試しました。価格テクニカル系はNET(コスト後)の1トレードあたり期待値がことごとくマイナスに沈み、唯一プラスだったキャリーも単一局面に依存していました。

戦略性質NET 結果判定
逆張り −2σ反発逆張り−0.271RNO-EDGE
順張り 終値ブレイク順張り−0.208RNO-EDGE
TSMOM(時系列モメンタム)順張り−0.032R(28ペア)NO-EDGE
横断モメンタム順張り横断負(grossでも)NO-EDGE
ORB ロンドンセッション−0.129RNO-EDGE
Donchian / タートルチャネル−0.008RNO-EDGE
RSI(2) + SMA200平均回帰−0.032R(gross微正)MARGINAL
キャリー(金利差)価格外+14.8% / Sharpe0.45局面依存

出典:docs/CONCLUSION.md。Rは1トレードあたりリスクを1としたときの平均損益倍率。

3つの構造的な発見(なぜ負けたのか)

① 短期戦略はコストが律速

15分〜1時間足の戦略は、gross では均衡〜わずかにプラスでも、往復2〜3pipsの取引コストがRの0.1〜0.2を食い、net で沈みます。「浅い損切りで往復ビンタ」という現象が、5つの戦略で数値として裏付けられました。

② 低頻度化でコストは外せるが、外した先にエッジが無い

日足・週足へ低頻度化すればコストの影響は小さくできます。実際 gross ≒ net になりました。しかしそれでも28ペアでは負け。つまり問題はコストだけではなく、そもそも素のシグナルに優位性が無かったのです。

③ 唯一の本物アルファも、JPY 1点に依存

価格の外側にあるアルファ=キャリー(金利収益+16.7%)だけは本物でした。しかしその中身は、ほぼ恒常的な「高金利通貨ロング・円ショート」。JPYを除外すると全体が −5.1% に崩壊します。

蜃気楼の正体。 技術系の“勝ち”はUSDJPY一極に集中し、キャリーは円ショート調達に依存。つまり観測された勝ちは、すべて2022–2024の「JPY安」という単一マクロ局面に帰着しました。標本そのものが一つのレジームに支配されていたのです。

この検証から、すべての投資家へ

もしあなたのバックテストが綺麗な右肩上がりを描いたら、まず疑ってください。その勝ちは、たった一つの相場局面に乗っているだけかもしれないからです。本研究では陽性結果が出るたびに、別のAIエージェントに「これを論破せよ」と批判監査させました。多くは「単一局面依存」という正体を暴かれて消えていきました。

そして重要な訂正——「価格テクニカルにエッジは無い」という結論は、実は正確ではありません。正しくは「単一資産・単一レジーム・分散なし・サイジングなしという、失敗が保証された枠組みで試したから負けた」。枠組みを正したとき、エッジは姿を現します。その話は次のレポートへ。

よくある質問(FAQ)

FXのテクニカル分析は本当に勝てないの?

この標本(2022–24・28ペア)では、価格テクニカル系はコストを正直に引くとすべて期待値マイナスでした。唯一プラスのキャリーもJPYショート依存で、JPYを除くと崩壊。ただし「テクニカルが永遠に無効」ではなく、「分散もサイジングも無い枠組みで試したから負けた」が正しい結論です。枠組みを変えるとエッジは現れます(レポート02)。

なぜ勝率が高くても負けるの?

勝率と期待値は別物です。短期戦略は1回の利益が小さく、往復コストがR の0.1〜0.2を食います。勝率が上がっても、コスト後の平均損益がマイナスなら、回数を重ねるほど資産は減ります。

キャリー戦略(金利差)は有効だった?

金利収益(+16.7%)自体は本物でしたが、円ショートに強く依存し、JPYを除くと全体が−5.1%へ崩壊。単一通貨レジームへの依存であり、頑健なエッジとは言えませんでした。